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2007/10/26

今は亡き、愛し君へ贈る詩~Ⅴ~

父と母を先に寝かせ、自分はずっと起きて猫をみていた。

また勝手に歩いて倒れたら、また吐いてしまったら
 
もし…死んでしまったら…?
 
心配で、傍から離れられなかった。
眠れなかった。少しでも一緒にいたかった。
 
 
案の定猫は夜中にも歩きだし、吐いた。
 
その度に、自分は毛布を掛け
吐いたものを片付け
口の周りを拭い
綺麗な水を飲ませ
頭を撫でた。
 
それが、夜中じゅう何度も続いた。
 
 
 
でも一度だけ、本当に、強く、吐いた。
 
突然力強く立ち上がり、身をよじらせた。
背中をさすろうとしたら、思った通り吐き始めた。
けれどそれは、今までの吐き方と違っていた。
 
お腹の中の茶黒いものだけでなく、本当に、体内の臓器まで出てしまうのではないかと思うくらい、体全体を強張らせ、波立たせ、ガクガクして、吐いた。
大げさな言葉ではなく本当に、強く吐いた。
吐き出す茶黒い液体の中に、何か白いものまで出してしまう。
吐くと同時に脱尿までしてしまう。
骨と皮だけの細い身体が身をよじらせ乱雑に動く。
あまりの出来事に、パニックになりそうだった。
 
 
自分が恐怖を感じた、正にその時だった。
 
 
目の焦点が合わず、
舌を出し、
ひきつけを起こす。
 
呼吸が浅くなり、
猫が気を失った。
 
あまりの吐く事の痛さや辛さに、目を大きく見開いて、本当に悲痛な表情のまま、猫は気を失った。
あんな表情の猫を見たのは初めてだった。
目を背けてしまいたくなる光景が目前に広がる。
支える右手には、力ない猫の重みだけがのしかかる。
自分の手はあまりの恐怖に、震えることさえなかった。
 
いやだった。
こんなのは、嫌だった。
 
夜中だったが思わず大声で名前を呼び、猫の体をゆすった。
死というものがこんなに目の前に感じられたのは
初めてだった。
怖かった。本当に怖かった。
まだ、行かないでほしい。
まだ早すぎるんじゃないか!!
こんな現実なんてありえない!!
 
いろんな言葉が自分の中で叫んでた。
何で!何で!!なんで!!?
 
 
 
 
幸い、すぐに猫は意識を取り戻すことができた。
猫が気を失ったのは一瞬だったのだろう。
しかし、自分には五分にも十分にも感じられた。
 
猫をまた同じように寝かせ、後片付けをする。
 
自分の手には、嫌なにおいのする茶黒い液体がこびりつき、
自分の目には、気を失った瞬間の、この世の恐怖を味わったかのような苦痛に歪むあの時の猫の表情が強く焼きついて離れなかった。
 
 
今でも、あの時のニオイと猫の表情を
忘れる事は出来ていない。
あの夜のことは、忘れたくても、忘れられない。
 
 
死は、確実に近づいていた。
 
 
あの夜、もしあの場に誰もいなかったら、
あのまま、お前は死んでしまっていたのではないかと
今でも思うことがある。
 
せめて、苦しんで死んで欲しくない。
そう思った。
本当に、それがせめてもの願いだった。
 
 
 
朝方になると、父が起きてきた。
なんだ、目が真っ赤じゃないか。少し寝ろ。
そう言われて、心配だったが猫を父に任せ、部屋に戻った。
 
自分も、もう限界だった。
苦しむ姿を見続けるのは
正直、辛かった。
 
そして、自分が猫と過ごした
最後の長い長い夜が終わった。

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